最高裁判所第三小法廷 昭和53年(行ツ)125号 判決 1980年8月26日
福井県三方郡美浜町坂尻四三番地
上告人
井村幸裕
右訴訟代理人弁護士
田宮敏元
福井県敦賀市曙町一一番地四三
被上告人
敦賀税務署長 小林智彦
石川県金沢市広坂二丁目二番六〇号
被上告人
金沢国税局長 高瀬昌明
右両名指定代理人
町谷雄次
右当事者間の名古屋高等裁判所金沢支部昭和五〇年(行コ)第四号審査請求棄却裁決等取消請求事件について、同裁判所が昭和五三年六月二三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人田宮敏元の上告理由について
所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 環昌一 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己 裁判官 寺田治郎)
(昭和五三年(行ツ)第一二五号 上告人 井村幸裕)
上告代理人田宮敏元の上告理由
原判決は、法令の解釈・適用を誤った違法があり、破棄さるべきものである。
第一、原判決は、上告人の上京税務署長宛になした昭年四一年六月二九日の本件所得税更正請求について、上告人は、本件において、旧租税特別措置法第三八条の六第三項、同第三八条の七第二項の各規定の適用があると主張するところ、同法第三八条の七第二項によって準用される同法第三六条第三項によれば、当該買換資産を取得した日から四月以内に、納税地の所轄税務署長に対し、その収用等のあった日の属する年分の取得税についての更正請求ができるとしているのであるから、上告人は前記条条の適用を受けるためには、右買換資産を取得した日から四月内に更正の請求をなすべきであるのにかかわらず、上告人は本件各物件を取得した日から六月以上を経過した昭和四一年六月二九日に至って始めて更正の請求をなした旨主張しているから右更正の請求はその主張自体から不適法であり、右四月という期間は、当該買換資産の取得価額確定或いは、これを事業の用に供し始めた日から起算すべき旨の主張は右明文に反し援用できない旨判示している。しかしながら、右判示は右法条の解釈適用を誤ったものと言うべきである。即ち、本来、更正の請求は従前の所得税の申告につきこれを是正せんがためになされるものであるから、その前提として買換資産の取得価額が確定されており計数的に一定の金額として把握されるものでなければならない。そうでなければ、更正の請求自体不可能である。従って、右法条に言う「取得した日から四月以内」というのは、右価額の確定を前提としているのであるから、右取得は、当該買換資産の所有権を取得し且つその価額が確定した日を意味するものと解すべきである。
そして又、前記法条の適用を受けるためには、当該買換資産を取得し、その取得の日から一年以内に当該事業の用に供すべきものであるところ、事業の用に供することが必要条件であるから、右取得の日とは所有権等の取得の日以外に当該事業の用に供する日をも包含するものと解すべきである。然らざれば、一年以内に事業に供すべきことを要件としたことと矛盾し適性を欠くからである。買換資産の取得の時点からみるならば、一ケ年以内に事業に供する見込ということなり、かゝる見込を以って随時更正請求を許す反面、かゝる見込が定かでない場合、正直者が馬鹿をみる結果となるであろう。
第二、原判決は、上告人の四月の期間不遵守につき宥恕さるべきものであるとの主張につき、旧国税通則法第一一条にいう災害その他やむを得ない理由に該当しないし、昭和四五年政令第五一号による改正前の国税通則法施行令第三条の規定による上京税務署に対し延期申請書を提出したという主張・立証もないから、上告人の右宥恕するべき旨の主張は採用し難い旨判示している。
しかしながら、右判示は法令の解釈適用を誤ったものである。即ち、
一、上告人は、本件買換資産を昭和三九年一二月三〇日付仮契約書及び昭和四〇年一二月二七日付売買契約書(甲第一号証、甲第二号証)に基き取得したものである。
しかして売買本契約を締結した昭和四〇年一二月二七日において右売買代金額は具体的に確定していなかった。右売買代金は、売主である日本レジャー産業株式会社(旧商号美浜温泉株式会社)のこれを取得するに、要する総金額と同額にするという定めであった。何故かゝる定めになったかと言うに、本件買換資産(美浜温泉と称す――海水浴場及び旅館附属設置付)は、旅館本館主体工事は訴外日本レジャー産業株式会社が昭和三八年一一月七日訴外数森工機株式会社に請負代金二、五〇〇万円也で建設工事をなさしめ、右本館内外装工事等は、訴外株式会社和光観光が昭和三九年五月五日から同年七月二〇日まで四回に訴外株式会社山田工務店に請負代金総額金八二三四万四、八〇〇円也で工事をさせ、附属什器備品は、訴外株式会社和光観光が訴外株式会社大丸に代金総額金一、八七一万三、三二五円也で納入せしめ、完成したものであるが、訴外レジャー産業株式会社が訴外株式会社から同訴外会社の右権利を取得し、更に上告人が右訴外日本レジャー産業株式会社から前述の如く所有権を取得したものである。
しかしながら、工事施行の瑕疵及び什器備品等の瑕疵により何れも、訴訟となり、株式会社山田工務店との由においては昭和四一年六月頃和解が成立し(調停作成が遅れて昭和四一年一〇月二五日となっている)、又株式会社大丸との間では昭和四一年六月二二日調停が成立した。
かくて、上告人の本件買換資産の取得価額は昭和四一年六月二二日確定するに至ったものである。(甲第三号証乃至甲第二七号証参照)
二、しかして、上告人は、訴外日観サービス株式会社に対し右買換資産(美浜温泉)を昭和四一年三月四日頃敷金二、五〇〇万円也賃料一ケ月金二〇〇万円也の定めで賃貸し、右訴外会社は「美浜温泉」が海水浴場であるので、現実的に昭和四一年六月末頃からその事業に供用された。
三、ところで、上告人の本件更正請求の前提である昭和四〇年一一月二二日付修正申告については、上京税務署の係員の行政指導の下になしたものである。
当時、上告人は、本件の不動産譲渡取得について、売却を依頼した株式会社山田工務店の代表者山田幸男が更に竹内某にこれを一任し同人が着服横領し逃走したため、売却代金立退料等の計算関係は一切不明であった。
従って、右修正申告は、上京税務署係員が、職権を以って種々調査し、右係員の計算により、その行政指導のまゝに提出されたものである。上告人自身その数字を把握したものではない。
この間、上告人は、昭和三九年一二月三〇日付の前記仮契約書の件及び近く売買本契約を締結する旨(昭和四〇年一二月二七日付契約書の件)をも係員に話しているのである。
しかるに、右係員は、税金を払わんでもよい方法がある旨抽象的に述べるもので、具体的な説明とか、法制度について何らの説明もなく、全くその行政指導を誤ったものである。
本件の租税特別措置法は全く難解の法律であり、専門家でさえ仲々困難なところ、素人である上告人に解る筈もないのである。上告人に附添って行った訴外野村幹雄は専門家でなく税理事務所の事務員に過ぎないのである。
右の如く本件についての行政指導は全く当を得ていないのである。
四、しかるところ、敦賀税務署長は、昭和四三年一〇月五日、租税特別措置法第三三条二項に基き上告人に対し、昭和三八年度、昭和三九年度分の譲渡取得について減額の更正決定をなしているのである。税務署長自身この時点において期間不遵守について宥恕しみなおしをしているわけである。
五、本件において上告人の異議申立について当局自身期間経過してもこれを放置していたに拘らず、上告人の僅少の時間の経過を主張するのは、公平の原則に反するものである。
六、叙上の経過事実により、更正請求の期間経過につき、宥恕さるべきものである。
第三、原判決は、上告人から上京税務署長に対し昭和四二年五月二四日付で異議申立がなされ、同異議申立は翌二五日上京税務署長に私達したが、同二五日の翌日から起算して三月を経過する日までに同異議申立について決定がなされなかったので、旧国税通則法第八〇条第一項第一号の規定によりその経過する日の翌日、すなわち同年八月二六日に審査請求がなされたものとみなされたというべきであり、上京税務署長はこれを看過し、同年九月一六日に右異議申立について決定を行ったがこれは無効というほかない旨判示している。
しかしながら、右解釈は誤りである。
成程、異議申立につき、三ケ月の経過により、審査請求とみなされても、税務署長に対する異議申立がなされ、これに対し、みなし審査請求後においても、一旦外形的に判断をなした以上、この手続の下に処理さるべきである。かく解する方が手続の明確・安全性という視点から妥当である。右の如き決定を当然無効として、審査請求とみなし裁決することは徒らに手続を混乱せしめる結果となるのである。しかも、市民の税務署長ついで国税局長の二重の審査を受ける利益を奪う結果となるものである。
従って、原審の右解釈は誤りである。
以上